『東京タラレバ娘』女子会はなぜ痛い?昭和生まれのアラサーと平成生まれのアラサーで考察
『東京タラレバ娘』で、女子会はまるで“悪”みたいに晒されました。
何も決まらない。前にも進まない。だけど、ないと困る。
そのぬるさに沈まないと耐えられない夜が、倫子たち、昭和生まれのアラサー女性にはありました。
倫子たちと、平成生まれの今のアラサー女性。「女子会」と「タラレバ」は同じでも、時代が違うと、痛み方がまるで違います。
東京タラレバ娘の女子会はなぜ痛いと言われたのか

あの店に行けば、誰かがいる。仕事で削られた日も、恋愛で心が痛んだ日も、倫子、香、小雪の三人は「第4出動」と呼んで集まります。酒を飲んで、「あのときこうしていれば」とタラレバを肴にする。傷を治しているというより、その夜だけ傷口を見なくて済むようにしている感じがあります。
一人で部屋に帰れば、仕事の不安も、恋愛の焦りも、「このままでいいのか」という声も、電気を消したあとにそのまま襲ってくる。倫子たちはそれが怖い。だから第4出動で笑いに変える。変えたところで何かが解決するわけではないのに、それがないと夜を過ごせない。
ただ、酒の力を借りた愚痴は、なかなか次の動きに変わりません。明日から誰に何を伝えるのか。どこを変えるのか。何をやめるのか。そういう言葉は、最後まで出てこない。出てくるのは「もし」「だったら」「れば」ばかりです。
倫子は33歳の脚本家です。香と小雪と女子会を繰り返しながら、「キレイになったらもっといい男が現れる」「好きになれればケッコンできる」と話している。怖いのは、三人が何も考えていないことじゃありません。考えている。焦ってもいる。なのに、「じゃあ明日どうする?」という話になる前に、もう一杯飲んでしまう。
温泉に浸かるみたいに、あの女子会はその夜の痛みを少しだけ鈍らせます。けれど、治ってはいない。朝になれば、決めなかったことは決めなかったまま残っている。
東京タラレバ娘のKEYはなぜ「タラレバ女」と言ったのか

倫子たちの女子会では、恋愛も仕事も結論まで行きません。「今回はタイミングが悪かった」「もっといい人がいるかもしれない」「本気を出せば仕事だって戻せる」。そう言っている間だけ、失敗はまだ失敗として確定しない。
誰かが落ち込めば、別の誰かが愚痴を重ねる。深刻だった話も、酒が入ると少し笑える話に変わっていく。そこまでは分かります。全部まともに受け止めたら、その夜が重すぎる。
そこへKEYが入ってきます。
「このタラレバ女!」
この一言で、三人が流していた言葉の逃げ場がなくなります。
「あのときこうしていれば」は、ただの後悔ではなく、動かなかった自分を許す言葉になる。「もっといい人がいれば」は、希望ではなく、選ばなかった自分を守る言葉になる。「本気を出せば」は、まだ何もしていない自分を未来へ逃がす言葉になる。
KEYは、そこを見逃さない。
倫子たちは、その夜だけでも失敗を笑い話にしたかった。仕事も恋愛も年齢も、全部まともに受け止めたら重すぎるから、酒を飲んで、愚痴って、「次がある」と言いたかった。
そこに「タラレバ女」と言われる。
もう「今日も飲んだね」とだけ言って帰れません。何も決めていないことを、三人とも見ないふりできなくなる。KEYの言葉によって、何も選ばないまま夜を終えることが、ただの息抜きでは済まなくなりました。
東京タラレバ娘の早坂ディナーで見えた「選ばれること」の重

早坂から「大事な話」があると言われて、倫子は勝手に恋愛の話だと思い込みます。
かつて自分から断った相手の早坂。あの頃はまだ、彼を結婚相手として見ていなかった。けれど時間が経って、早坂は地道に仕事を積み上げ、プロデューサーになっています。
その早坂からの「大事な話」です。
倫子の中では、もう答えが決まってしまう。告白かもしれない。今度こそ結婚に進めるかもしれない。やっと自分が選ばれる番が来たのかもしれない。
女子会で「タラレバ」を重ねてきた倫子の脳は、ここで一気に都合のいい未来を作ります。
倫子はまだ、早坂の言葉を聞いていません。なのに、選ばれた後の自分だけが先に席についている。
「もしあのとき早坂を選んでいれば」
「今からでも早坂が自分を選んでくれれば」
「この話が告白だったら」
でも、早坂の「大事な話」は、倫子への告白ではありません。後輩の芝田マミに関する恋愛相談です。
痛い。ただ振られるより痛い。
そもそも告白すらされていない。倫子が勝手に、選ばれる未来を妄想して、そこへ座っていただけです。
これが、女子会でタラレバを重ねてきたアラサー女子の姿だと思うと、笑えません。
昭和生まれのアラサーと、平成生まれのアラサーでは痛さが違う

ドラマ版『東京タラレバ娘』が放送されたのは2017年です。
倫子たちは、昭和生まれのアラサーでした。30歳を過ぎて、結婚していない。彼氏もいない。仕事も思ったようには進んでいない。その状態を、笑い話にしながら飲むしかないところまで来ている。
今の平成生まれのアラサー女性が同じように女子会をしても、たぶん見え方は違います。結婚していないことを、すぐに「遅れている」「選ばれていない」と結びつけられる感覚は、10年前よりかなり薄くなっています。
平均初婚年齢は、そこまで大きく変わっていません。厚生労働省の人口動態統計では、2014年の妻の平均初婚年齢は29.4歳、2024年は29.8歳です。
でも、年齢が大きく変わっていないのに、アラサーの見られ方は変わっています。
倫子たちの時代には、「結婚していない」「彼氏がいない」「選ばれていない」が、そのまま自分の価値を削ってくる感じがあります。だから女子会で「もっといい男がいれば」「好きになれれば」「あのときこうしていれば」と言う。そう言っている間だけ、自分はまだ終わっていないと思える。
倫子たちは痛いです。酒を飲んで、愚痴って、タラレバを重ねて、朝になっても何も選んでいない。三人の夜には、ちゃんとだらしなさがあります。
でも、もっと痛いのは、その女子会に「タラレバ女」と名前を付けられてしまうことです。彼女たちは前に進んでいない。そこは確かにそうです。だけど、結婚していない自分を笑い話にしないとやっていられない夜まで、悪いものとして晒される。
今のアラサー女性は、結婚しない人生も、仕事を優先する人生も、恋愛を生活の真ん中に置かない人生も、昔よりは口にしやすい。反論されることはあっても、「そういう生き方もある」と言える言葉がもうあります。
内閣府男女共同参画局の資料にも、20〜30代女性が積極的に結婚したいと思わない理由として、「結婚に縛られたくない、自由でいたいから」「結婚するほど好きな人に巡り合っていないから」という言葉が出てきます。
ここで残るのは、数字よりもその言葉です。「結婚したくない」「自由でいたい」と、理由を外に出せる。倫子たちの女子会では酒の席でこぼしていたような言葉が、今は選択肢として表に出ている。
今も昔も、女子会はあります。タラレバを言う夜も、たぶん消えていません。
ただ、倫子たちの時代は、そのタラレバが今よりずっと重く見られていた。結婚していないこと、選ばれていないこと、年齢を重ねることが、そのまま「前に進んでいない女」として返ってくる。
倫子たちは、時代が悪かっただけではありません。三人にも、ちゃんと痛さはある。
それでも、タラレバを言う夜まで悪みたいに晒される。そんな時代にいたことも、かなり痛かった。
東京タラレバ娘の女子会が痛かった本当の理由

『東京タラレバ娘』の女子会は、たしかに痛いです。倫子たちは何も決めないまま、同じ夜を繰り返しています。
前に進まない夜なのに、ないと困る。そういう夜を、KEYの言葉は容赦なく切ってくる。読んでいて嫌になるのは、そこです。
10年前は、タラレバを言う女子会が“前に進まない悪”として晒された。でも今読むと、それは当時のアラサー女性が息をするための夜にも見えます。
たった10年です。
じゃあ、10年後はどうなっているんでしょうね。
今の僕たちが当たり前だと思っている悩み方も、10年後のアラサーから見れば、ずいぶん古く見えるのかもしれません。
FAQ
『東京タラレバ娘』の女子会はなぜ痛いと言われる?
何も決まらないからです。酒を飲んで、愚痴って、タラレバを重ねても、現実は動かない。でも、その夜がなければ持ち帰れない焦りもある。だから、笑えるようで笑えないんです。
KEYの「タラレバ女」は正論なの?
正論というより、逃げ道をなくす言葉です。倫子たちが笑い話にしていた失敗を、KEYは「タラレバ」と名付けてしまう。腹が立つのに、流せない言葉です。
『東京タラレバ娘』は古い結婚観の漫画なの?
古い結婚観はあります。けれど、そこで切ると、倫子たちの女子会に残っている嫌な温度まで消えてしまう。あの三人を笑うより、そこまで焦らせた時代のほうが気になります。
今のアラサーにも刺さる作品?
刺さります。ただ、刺さる場所は変わっています。倫子たちだけを「痛い女」と笑うつもりで見ると、別のところがざらっと残るんです。



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